珈琲を頼りに
リチルさんへ行った。
”読書珈琲”という響きから、きっと静かで密やかな場所なのだろうと前々から気になっていた所だ。
シマウマ書房さんのある今池にリチルさんもあると聞いていたので、活版印刷のワークショップを終えた後。同店で購入した武田百合子の『ことばの食卓』を手にして向かうことにした。
地図が示す場所に向かって歩くのだが、リチルさんにあたる店が見つからず、「ここか?ここのはずなんだけど」と同じ場所をぐるぐると回り続ける。歩いても見回しても見つからず「もう諦めてしまおう」と思い始めた時、鼻がかすかに珈琲の香りを嗅ぎつけた。
すんすんと鼻を鳴らしながら、微かに空気中を漂っている珈琲の香りを頼りに周辺をよく見てみると「読書珈琲リチル」の看板を発見した。
アパートメントのような建物を前にして「ここにあるのか?入ってもいいのか?」と不安がよぎる。
2Fと書かれているので恐る恐る階段を上がり、リチルの名が書かれた扉の前に立つ。特に変わった所のないアパートメントの扉を前にして、少し緊張しドキドキした。
文学では日常の世界から非日常の世界へ転ずることを異化という。目の前の扉は日常と非日常を隔てる異化の教会のようであった。
恐る恐る扉を開けると、控えめな照明と落ち着いた空間が広がっていた。1Kぐらいの間取りの中に1人用の席が3つ、2人用の席が3つあり、内4つの席が埋まっており、人々は読書をしたり書き物をしたり各々の世界に浸っていた。
扉を閉める音が部屋の静けさを邪魔してしまうようで、ゆっくりと閉じることにした。
壁際の席に座り”頁(ペイジ)”という中煎りの珈琲とマロンキャラメルのパウンドケーキを頼んだ。店内は静かにゆったりとした時間が流れていて、時々珈琲を淹れる音が聞こえるのが心地よかった。
本棚には店主である宮地孝典さんが書評で取り上げた本や、これから取り上げられるであろう本がぎっしりと詰まっていた。
その中に、1冊600円で販売されている謎の詩集があった。これは予想だが、店主の方が自家出版しているものではないだろうか?
頁をパラパラとめくってみると、くすりと笑えるものあり、「うんうん」とうなずけるものあり、短めの詩が何編か収められていた。今回はざっと目を通すことしかできなかったが、また時間が多く取れる時に全部読破してみるのも面白いかもしれないと思った。
美味しい珈琲とケーキ、読書に思い切りひたれる空間を楽しみ、リチルを後にすることにした。宮地さんに店を見つける事が困難であったことを伝えると、
「見つからなくて諦めちゃう人もいるんですよ」
と言っていた。
珈琲の香りという偶然によって見つけることができた私はきっと幸せ者なのだろう。
隠れ家のような、秘密の倶楽部のような場所を知り、心の中でにんまり嬉しい気持ちになった。
リチルさんは年末から毎週火曜日のみ通常の喫茶店”珈琲典”として営業するようなので行ってみたい。
本棚にある謎の詩集が宮地さんの手によるものなのか聞きそびれ、ずっと心に引っかかっているから。
読書珈琲リチル
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